2016年1月10日日曜日

秘密基地が進化し続ける秘訣 ”つながりのメカニズム”と成果への”流れをつくる”アプローチ

北九州にきて、秘密基地を中心にまちに関わるようになって、今も現在進行形で体感しているのは”何だかよくわかないうちに、いろんな成果が出ている!”ということです。関わっているプロジェクトも増えていくけれど、なぜだか何とかなってしまう、というより想像以上の成果につながっちゃっている。なぜそんなことが可能になったのかを振り返りと、勝手に成果が生まれ続ける、”つながりメカニズム”が存在していて、”成果への流れをつくる”ことができていたからでした。しかもこのメカニズムは意外とシンプルで、”びと”がいればどこでもすぐにできる、というものでした。




  勝手に物事が動いて何かが生まれてくる秘密基地の日常
北九州のコワーキングスペース秘密基地は2016年1月でオープンして丸2年。今、本当にたくさんのプロジェクトが動いています。エバンジェリストのぼくはもちろん、スタッフのみなさんや、オーナーの岡さんですら把握できないくらい。そして想像もしていなかったようなプロジェクトが動き出し、成果に日々変わっていっています。例えば2015年には夏に独自に北九州ローカル・クラウド・ファンディングをスタートしていますし、その直後には九州7県ほか多数の自治体を巻き込んだ地方行政ICTフォーラムの空間プロデュースもしてますし、秋には北九州フード・フェスティバルで3万人を動員しています。今も北九州市と連携して公共空間リソース活用勉強会を推進し、Canal Violaという屋台事業の実証を推進中です。秘密基地で提供している北九州創生塾は、北九州を飛び出してほかの地域にも提供を始めています。



もちろん、最初からこれだけのプロジェクトが動いていたわけではありませんでした。2014年のオープン当時は知る人知る、といった程度。ただ、Facebookを通じた情報の発信は最初からずっと行っていました。そしてぼくも当時はただの秘密基地の常連でファンだったのですが、本当に素敵な空間で可能性を感じていたので、自分のFacebookで紹介したり、寄稿する記事の中に書いたり、講演で触れてみたりと、ことあるごとに秘密基地の情報を発信していました。

また秘密基地はコワーキングスペースですので、会議やイベントができます。ですので、ぼくは北九州で会議をするときは秘密基地でやっていました。会議室を借りるよりも手軽だし、喫茶店のように周りを気にしなくてもいいですからね。ちょっとしたセミナーやワークショップなども開催してました。飲食もできますし、夜はお酒もあるので、夜は完全に入り浸っていました。家が関東にあり、北九州には毎週通ってホテル暮らし、といった感じなので秘密基地はぼくにとってはリビングルームのような空間になっていきました。

当然、リビングルームなのでそこにいる方たちとも一緒に話したり、遊んだり、食事をしたりする時間も増えていきます。気が付いた時には友達が北九州にたくさん増えていて、そしてぼくはたくさんの北九州のまちのこと、仕事のこと、ひとのことを教えてもらいました。ぼくも ぼくが持っている情報や北九州以外の地域の知人・友人に秘密基地に招いて紹介したり。いろんな形でどんどん人がつながっていきした。しかも年齢や肩書、経歴にもとらわれず。北九州のまちに、仕事に、ひとに興味がある、このまちを愛している、そんなところでつながっていきました。

すると、ちょっとずつ変化が起き始めます。いろんなひとがいろいろな知識をもってくるので、お互いに刺激しあいます。例えばオーナーの岡さんは建築士で、ぼくは建築関連については相当に疎い、という状態が最初した。逆に僕はビジネスやITといったところが得意です。これが秘密基地にいると、僕のビジネスやITの要素に建築的な話が絡まってきて、融合されて、いまでは空間のデザインから議論をするようになってしまいました。もちろん専門家ではないので細かいことはわかりませんが、そんなときは岡さんに助けてもらえるので問題ありません。

こんなコラボレーションが次々に生まれて、プロジェクトになっていきました。そして「助けられることがあり、助けてもらえるひとがいる」という感覚や、「このまちを愛している」とった感覚が言葉にしなくても共有されている感覚でした。だからなにをやっても誰かがちゃんと動いてくれるし、もし動かないのであれば、まだ何かが足らないだけで修正されていく、そんな流れが日常になってしまいました。気が付いたら、冒頭のような成果が次々と生まれて、もはや把握できないぐらいになってしまった、といったところです。



  論理的に統制して効率を求める、従来のアプローチの限界

改めて振り返ると、「よくもまぁ、これだけいろいろやったなぁ」と感じます。ただ、今となっては「このぐらいはできるでしょう」という確信を持つことができます。ただ、秘密基地にかかわる前の、”従来のパラダイム”の中にいたコンサルタントや企業の戦略担当としての自分だったなら「難しい」「大変そう」「やりたくない」といった感情のほうを強く持っていたでしょう。チャンスがめぐってきたとしても”あれこれ言い訳してやらない”、”おざなりにする”、といった選択をしていたに違いありません。では、なぜ”従来のパラダイム”にとっては難しく見えるのでしょうか。過去の自分を振り返ってみようと思います。

従来のパラダイムにいた僕は、物事を論理的に整理することを重視していました。全体を正確に把握して、分類して、構造を理解することが大事だ、という意識が非常に強かったわけです。そして、ルールや仕組みを作ったり、物理的な環境を整えたりすることで、計画したとおりに物事が効率的に進むことを成果としていました。簡単にいえば、会社のコストが下がったり、売り上げがあがればOKです。だから可能な限り完璧な分析と計画を立てて、なんとしても計画通りに進めていく、ということをしていました。

この従来のパラダイムから見ると、秘密基地でやっていることは、この上なく面倒です。論理的に整理するにも全体像がつかみにくい。分類しようとしても、あまりにいろいろなパターンがありすぎて複雑になってしまう。しかもどんどん形を変えてしまうので構造も把握できなければ、先が読めない。だからルールや仕組み、物理的な環境を作るための根拠が得られない。もしやるなら、どこかの事例を持ち込んではめ込むことになるのだけれども、そんな事例も存在しない。しかもShared Societyのパラダイムにいるので、コストが下がる・売り上げが上がる、という話だけでは協力を得ることも難しい。

それでも従来のパラダイムで無理やり秘密基地のアクションをやろうとするならば、膨大な分析をリアルタイムに継続し、寝る暇もなく状況を把握し続けて、計画を修正し続けて、場合によっては無理やりにでも説得して実行に移していかなければいけない。膨大な時間と労力とお金を投入し続けなければいけないので、その調達にも多大な労力を払っていかなければいけない。

簡単に言ってしまえば、従来のパラダイムで秘密基地のアクションをやろうとしたら、必ずと言っていいほど八方ふさがりになるわけです。だから、なんだかんだ言い訳して、自分の立場や経歴が傷つかないように撤退するためのことに重点を置くことになります。

では、なぜこんな形にはまり込んでしまうのでしょうか。結局のところ、従来のパラダイムにいた自分は、どこまでいってもものごとを部分的・表面的にしか見ていなかったし、自分が理解できる範囲にしかとどまっていなかった、ということが大きな要因なのだと感じています。膨大に溢れる”もしやるときめたら、やらなきゃいけならないであろうこと”に圧倒されて、口ばっかりの戦略を唱えてごまかしていたわけですね。当然ですが、こんなアプローチで新しい価値をカタチにしていくことは叶いません。



  やっぱり”ひと”、ひとの根源からアプローチすると流れが変わる

では、なぜ秘密基地ではこれだけの成果が、勝手に、どんどん生まれるようになったのでしょうか。実際に体感したこと、していることを考察すると、まず成果が生まれる”つながりのメカニズム”が見えてきました。そしてそのメカニズムから実際に”成果への流れをつくる”には、”ひと”に着目することが不可欠だということがわかってきました。

成果が生まれる”つながりのメカニズム”は、U理論の中で初会されていたMITのダニエル・キムの成功の循環モデルと、福沢諭吉の民情一新、一橋大学 野中 郁次郎 名誉教授のSECIモデルにインスピレーションを受けて見えてきました。たまたまこの辺りを勉強していたのはラッキーでした。このメカニズムは、「情報」・「接点」・「関係」・「思考」・「行動」・「成果」の順で循環するモデルです。

まず「情報」。インターネットやメディア、その他講演、会議、雑談などで私たちは情報を得る段階です。例えば「北九州に秘密基地っていう、ちょっと変わった空間があるらしいよ」という情報がAさんに伝わります。2つ目は「接点」。実際に情報で得たものごとに触れる段階です。例でいえば、秘密基地に行くための交通手段が用意されていて、実際に秘密基地の中に入れる、ということになります。3つ目は「関係」です。だれかとの新しいつながりができる、知人・友人などの関係になっていく、という段階です。秘密基地にきて、オーナーの岡さんやぼくやたくさんの仲間たちと会って会話をする、セミナーやワークショップに参加する、といった具合です。そして4つ目は「思考」です。新しいつながりができて、いろいろな考え方に触れると多かれ少なかれ、考え方に影響を受けます。例でいえば、自分も秘密基地で楽しみたい、同じような場所を作ってみたい、といった感じです。そして5つ目は「行動」です。考え方に影響を受けると、何かしらの行動も変化が起きます。実際に秘密基地の常連になったり、プロジェクトをなにか始めたり、ほかの似たようなスペースに行ったり、体験したことを話したり。そんな変化が起きます。そして6つ目は「成果」です。行動に変化が起きたのならば、成果の在り方も変わります。秘密基地で一緒に何かを作り出したり、プロジェクトを達成したり。そんなことが起きます。そしてこの「成果」はまた「情報」として発信され、誰かに影響を与え始めます。

こんな”つながりのメカニズム”が基本的には存在しているんだな、ということが感覚的にわかりました。そして、このメカニズムの裏側には、社会にかかわる資本が動いている、ということも同時に見えてきました。「情報」を中心にして背景にあるのは知的資本、ようはノウハウとか経験とかです。特許や著作権といった形で守られるものもあります。「関係」の背景にあるのは社会関係資本、ソーシャル・キャピタルと呼ばれるものです。つながりのもっている価値、といったところですね。そして「行動」の背景にあるのは経済活動資本、ようはお金だったり、お金に換えられる価値のある物理的な”もの”や”サービス”です。こうした社会にかかわる資本がみえてくると、あることに気づきます。社会関係資本が高いと、経済活動資本はそれほど投じなくても、ものごとが動くこと。また、知的資本が高いと社会関係資本が醸成され、経済活動資本は知的資本に還元されていること。そしてこれらの資本に一番シンプルにアクセスできるのは”ひと”そのものだということでした。

つまり、”ひと”とちゃんとつながれば、どんな活動でもなんとかなる、ということに確信を持てたわけです。でも”ひと”とつながるというところも簡単ではありません。これまでも「つながることは大事だ」というよな意見は多かったわけで、そんな本も多くあるわけです。何が言いたいかというと、”どうつながるか”をちゃんと考えないわけです。

では、どうつながるか。表面的につなげたり、ルールを設定して行動のパターンを整理したり、環境を変えるだけでは従来のパラダイムとあまり変わりません。つなぎ合わせなければいけない要素も多い。だからつながるレベルを深くしていく必要があります。そこでこれまでは”文化”や”風土”というところに着目されていました。よく企業などの組織では”風土改革が必要だ”といったような掛け声がかけられます。しかし、なかなかうまくいきません。おそらく、秘密基地でも”風土づくり”みたいな感覚でやっていたら、ここまでの成果はあげられなかったでしょう。ではどのレベルでつながるか、というと”無意識の前提”のレベルです。結局、”文化”や”風土”もひとが作ったもので、ひとが”これが正しい、こうあるべきだ”と無意識に想っていることに影響を受けています。だから、無意識の前提のレベルでつなげれば大きく変わる、というわけです。このあたりはMITのU理論にたくさん学びました。

秘密基地では実際、「このまちを愛している」というところでみんながつながり、哲学や理念が感覚的に共有されています。だからこそ、「助けられることがあり、助けてもらえるひとがいる」という感覚も、あえて言葉にしなくても共有できています。一見バラバラに動いているようであっても、根源がつながっているので、ブレることはありません。必要な時に必要な形でつながっていきます。まったく統制しなくとも、勝手に。だから事細かに把握すること自体、必要ないんですね

結局のところ、ひとの根源からつなげて成果がうまれてくる”つながりのメカニズム”に乗せて、”成果への流れをつくる”。ただこれをやっているだけというわけです。そして従来のパラダイムから見れば難しくて仕方ないことですが、Sharing Societyからしてみれば日常なので、だれもが当たり前のように動ける、といった具合です。



  まとめ:ファシリテーターとして”成果への” 流れをつくる” ことが僕の仕事
成果への”流れをつくる”ことができれば、秘密基地で起きていることは世界中どこにいってもできるような気がしています。実際体験してみると、すごく特別なことをやっている感覚もないし、”つながりのメカニズム”を説明するとと長いけれども、ひととして当たり前のことをやっているだけ、という感覚が強くあります。けれども、ひとがつながる、ということは言うほど簡単ではありません。つながらなければ、成果への流れはつくれません。

だから、ひとが無意識の前提のレベルからつながれるように、ぼくはファシリテーターとしてこれからも貢献してきます。北九州ではもちろんのこと、ほかの地域でも、ぼくが貢献できるのであれば喜んでいきます。そして僕一人でもできないので、僕なりのファシリテーションのやり方をお伝えしていきながら、いっしょに”流れをつくる”仲間とつながっていきたいと思います。それが僕の自分らしい人生で、生きている意味だと確信できるので。

もし”流れをつくる”ことに関心を持っていただけたのなら、秘密基地または東京のどこかで、お会いできたら幸いです。