“豊かさ”は選択肢があることであり、そのために形式知・暗黙知の学びが必要だとした場合、どのようなアプローチで学びを形作っていけばよいのでしょうか。この点についても考察をまとめてみたいと想います。
ベースは知識創造プロセス ⇒ 新たな知識を生み出し、得るための基本ロジック
形式知と暗黙知の双方が必要であり、かつその相互作用も学びには必要になります。形式知、つまり机上の理論だけでは“物知り博士”で終わってしまい、新しい価値=選択肢を生み出したり、得たりするとろろまではいたりません。逆に実践による経験、感覚的な要素を中心とする暗黙知では体系的な整理だできず、存在しているはずの価値を見落としてしまう可能性があります。したがって、形式知と暗黙知の双方をバランスよく得る学びが必要になるわけです。
そこでベースの理論として思いつくのが一橋大学の野中郁次郎教授が提唱している知識創造プロセス、いわゆるSECIモデルです。SECIモデルは
・共同化(Socialization) : 共体験を通じて暗黙知を伝達
・表出化(Externalization) : 暗黙知を文字や図などの形式知に変換
・連結化(Combination) : 形式知同士を組み合わせ、新たな形式知を創造
・内面化(Internalization) : 形式知を使って実戦経験を獲得
の4つのプロセスを通じ、形式知と暗黙知の相互作用を起こして新たな知識を創造することが可能になる、という理論。
理論的には難しそうですが、新しい知識が生まれてくる場では必ずといっていいほどこのSECIモデルのプロセスが実行されています。例えば、食料品メーカーの商品開発ならば
1・利用客が普段食べている食材やお店のメニューを同僚と食べてみる ⇒ 共同化
2・食べてみた感想を言葉にして意見交換し、新商品のアイディアを出していく ⇒ 表出化
3・出てきたアイディアを繋ぎ合わせ、マーケティングデータと照らし合わせて企画書を作る ⇒ 連結化
4・企画書にしたがって実際に商品を開発し、市場に提供する ⇒ 内面化
5・市場の反応を店舗やお店などで確認する ⇒ 共同化
6・再び意見交換していく ⇒ 表出化、以降は連結化、内面化へ
といったかたちで実行されていくわけです。
この知識創造のプロセスを学びにメカニズムに応用していいくことで、“豊かさ”を形作る選択肢を生み出し、そしてその選択肢を選ぶ力に変えていくことができるのではないでしょうか。
豊かさへの学びのプロセス ⇒ 選択肢と選択を形にする学びを
では、具体的に知識創造プロセスを学びに反映した場合、どのようなモデリングが考えられるのでしょうか。まず、形式知を得る学びのアプローチとしては、論理体系だったプログラムが必要です。教科書などの書籍や、専門家による講義によって得る学びであり、問いに対して明確な解のある学びといってもいいでしょう。これに対し、暗黙知を得る学びのアプローチは、感性的なプログラムが必要です。体験を通じ、感覚的な理解を得る学びであり、問いに対して明確な解がない学びといえます。哲学的な学びといっていいかもしれません。
また、“豊かさ”という言葉を考えたとき、とくにそれをスマートシティなど昨今の社会の流れと照らし合わせた場合は、個人的なニーズの充足だけでは十分とはいえません。社会的なニーズの充足といった観点も必要になってきます。つまり、個人にフォーカスした学びと、社会に視点を向けた学びが必要になるわけです。
これらを踏まえて、知識創造プロセスをベースに整理すると、各プロセスに必要な学びが見えてきます。
・共同化 ⇒ 個 × 感性的な学び = 思想
・表出化 ⇒ 個 × 論理的な学び = 機能
・連結化 ⇒ 社会 × 論理的な学び = 構造
・内面化 ⇒ 社会 × 感性的な学び = 文化
の4要素が必要であると考えられます。そしてそれぞれに選択肢を得ていくことが求められるわけです。逆説的にとれば“学びがあり、選択肢が増えて、豊かさが実現できる”ともいえます。すなわち、豊かさには
・思想的な豊かさ
・機能的な豊かさ
・構造的な豊かさ
・文化的な豊かさ
も必要だと言うこともできるでしょう。
まず、思想。これは“想い”や“信念”、”自分の軸”といった言葉でも言い換えられます。自分が何をしたいのか、何のために行動するのか、それに気付き、実感していくプロセスです。そして機能。これは自分がやりたいことを実現するために、身につけていく固有の知識や技術が該当します。構造は、機能を構成して社会的な価値を提供するためのメカニズムを獲得するプロセスです。そして文化は、価値を社会に対して提供することで評価を得るプロセスとなります。そうすることで、自分の“想い”にまた新しい刺激が与えられ、知見が広がっていくわけです。
もちろん、知識創造ですので、このプロセスはただ既存の知識を身につけていくだけではありません。自らも新しい思想をつくり、機能を実現し、構造を具現化し、文化を刺激していくことが必要になります。なぜなら、知識をインプットするだけでなく、アウトプットして創造していくことが大きな学びになるからです。
豊かさの学び、実践へ ⇒ 対話と考察と実践のサイクルを
では、この知識創造をベースとした学びのプロセスを実践して以降とした場合、どういったアクションが必要でしょうか。その場合は
・対話
・考察
・実践
の3つステップを踏むことも必要になります。まず、対話によって多様な知識に触れて既存の知識から気付きを得ます。そして目標を設定した上で、考察を深めて具体的なイメージを固めていきます。そして最後に実践により経験を得て、学びに変えていくわけです。なお、考察については、目標を達成するための手段を考えるステップとなります。この場合は全体像から落とし込んでいく、つまり文化的な要素から必要な構造、機能、そして自分が解決すべき課題と落とし込んでいくことが有効かもしれません。
例えば、漠然と“社会に貢献したい”とだけ考えている人がいたとします。
<対話のステップ>
1・思想 ; 周囲の環境に触れ、“社会に貢献する”ということが何かを学ぶ(想いを固める)
2・機能 : 価値が認められている個別の商品やサービスを知り、学ぶ(個別事象に触れる)
3・構造 : その商品やサービスがどういった形で社会に価値提供しているのかを知り、学ぶ(体系を知る)
4・文化 : 実際に商品やサービスが使われている場に行き、どんな価値を生んでいるのかを学ぶ(関係を知る)
<考察のステップ>
5・文化 : 社会に実現すべき価値が何かを捉える(目的を決める)
6・構造 : その実現に必要となる社会システムを整理する(構想を整理する)
7・機能 : 社会システムを構成するための要素機能を整理する(要求を明らかにする)
8・思想 : 自分がアプローチするポイントを定める(課題を特定する)
<実践のステップ>
9・思想 : 自らがやるべきことを具体的に定義する(課題に対する解決策を定める)
10・機能 : 自分の得たスキルを提供する(実現への要素の提供する)
11・構造 : 価値提供を行うための仕組みを具現化する(まとめあげ成果を具体化する)
12・文化 : 実際の価値提供を行い、評価を得る(社会に価値を提供する)
といった形で学びを重ねていくことになります。そして再び1に戻り、改めて見つめなおすことで、また新たなプロセスに繋げ、広がりと発展が得られると考えられます。
まとめ : 知識創造ベースでの学びが社会に選択肢をもたらす
知識創造をベースとした学びのプロセスは、自らの知見を広げて選択肢が増えていきます。そして知見を深めることで、多くの選択肢から選択すべきものも見えてきます。もちろん、社会にも価値提供がなされ、自分以外の誰かの選択肢も増やすことになり、周囲に波及していくわけです。
こうした知識創造をベースにした学びのプロセスが社会全体で継続されるのであれば、”豊かさ”への実現には近づいていけるのではないでしょうか。