2012年6月7日木曜日

【ネタバレBookReview】出現する未来

講談社
発売日:2006-05-30
ビジネスにはイノベーションが必要です。しかし、現代のイノベーションは従来のアプローチでは十分ではなくなってきました。分析を重ね、過去のケーススタディを適用するだけでは、新たなイノベーションにはつながらなくなっているのです。必要なことは未来に学ぶこと。そのための要点である、知識創造、U理論、学習する組織といった要素がこの「出現する未来」に詰まっています。

以下、要点と解釈の整理です。


  イノベーションの前提 ⇒ 無知の知
イノベーションは何もしないところに突然生まれません。学習することが必要です。しかし、ただ学習すれば宵というものではありません。より深い学習により、思考と行動を結びつけていくことが必要になるのです。そして、情報を覚えるだけでも十分ではありません。ただ“知る”だけではなく、深く内面に落とし込んで"理解する”ことが必要なのです。また、今見えていること、知っていること、理解していること以上のものがあることを理解しておくことが必要です。まさに"無知の知”です。


  "見ること”から始まる ⇒ 保留
イノベーションを起こしていくために、未来から学ぶためには、目にするものを”純粋”に受け止める必要があります。”純粋”といっているのは、余計な考えをいっさい入れない、自分の勝手な判断や評価を加えないということです。「そんなのは当たり前」という感覚を保留し、自分の枠組みにはめ込まない、あれこれ理屈付けををしない、常に新鮮な目で見つめることが必要なのです。そのためには自分が自信を持っていることも経験も一度横に置いておく、つまり"保留”をする="傾聴”するということが必要になります。


  全体を俯瞰する ⇒ 転換
ものごとを保留して見るようになったら、次に必要なことは全体をとらえることです。個別の事象だけでは重要な要素を見落としてしまいます。見えている部分は非常に表面的で、ごく一部でしかないかもしれないのです。そのときに必要なことは物事の背景にまで目を向け、意識をその根源に"転換”することです。言い方を変えれば、相手の立場で物事を見るわけです。そうすることで、いろいろな視点を得ることができます。視点の数が増えればそれだけ、全体像をとらえやすくなり、本質が見えてくるわけです。


  新たな知識を得る ⇒ プレゼンシング
保留し、全体像をとらえならば、必要なことは理解です。このとき、論理的に理解することも必要でしょう。しかしながら、頭で理屈で考えるだけでなく、感性でも受け止めていくことが必要です。そして論理的な分析によって行き着く結論ではなく、自分の感性から導きだされたイメージを出現(プレゼンシング)させます。すなわち新しい理解=知識を得るのです。

このとき必要なことは、自分のこだわりや執着を手放すこと。自分自身の論理でコントロールしようとしないことです。そして出現した新たな知識をありのまま受け入れることが必要になります。この受け入れたものこそが、イノベーションへとつながるキーになります。


  知識をカタチにする ⇒ 結晶化
新たに得た知識はそのままでは十分な社会的価値を提供しません。カタチにすることが必要です。新たに得た知識を、焦点を絞って具現化=結晶化を始めることが必要です。このとき、いきなり大きな成果を求める必要はありません。身近なところでできる小さな一歩を踏み出すこと、プロトタイピングを繰り返していくことが必要なのです。そしてその一歩をつなぎ合わせて、プロトタイピングを連携させていくことで、大きな価値へと変えていくのです。


  現代は未来に学ぶ時代 ⇒ 必要なものは「場」
保留・転換・プレゼンシング・結晶化というアプローチは、複雑化する現代には非常にマッチするアプローチでしょう。複雑にダイナミックに変化し続ける社会に対して、過去のケーススタディだけで対応することは不可能です。もちろん、それが不要な訳ではありません。しかしながら、先が見えない時代だからこそ、未来から学ぶアプローチが必要なのです。

幸いなことに、SNSが普及したことで私たちは今まで以上に知識のつながりを得ることができるようになりました。より多くの知識を保留して受け止め、転換して全体像をとらえて結晶化する。そしてそのつながりの中で多種多様なプロトタイピングが行われれば、今までにないイノベーションは間違いなくおこります。そういった意味では、イノベーションを起こすために最も必要なものは、ひととひとがつながり、知識がつながり、機会がつながる「場」なのかもしれません。