ジェームズ・C・コリンズ(James C. Collins)
日経BP社
発売日:2010-07-22
発売日:2010-07-22
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この3冊の構成としては、
起業 : ビジョナリーカンパニー2
企業成長 : ビジョナリーカンパニー
経営者への警鐘 : ビジョナリーカンパニー3
となっていることがよくわかる。
つまり、この本が紹介する内容は、
経営者やリーダーが決して忘れてはいけない戒め、であり、
自分の組織がどのような状況にあるのかを見直し、
ふただび企業成長へと舵を切りなおすための、
きっかけとなるメッセージが詰まっている。
ここでビジョナリー・カンパニーをおさらいしておくと
≪起業≫
・第5水準のリーダーシップ
(賢慮型リーダーシップ)
・最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
(まずは人ありき、できることを見極める)
・厳しい現実を直視する
(謙虚であれ、真摯たれ)
・ハリネズミの概念
(選択と集中)
・規律の文化
(敬意と感謝とコミットメント)
・促進剤としての技術
(清濁あわせのみ、利用できるものを利用する)
・悪循環を断ち切り、はずみ車を作る
(踏み込んで、中核を作り、前に進める)
≪企業成長≫
・ビジネスの時計を作る
(自らがビジネスをドライブ、環境に任せない)
・「AND」の精神
(二頂対立を超えた解を見つけ出す)
・基本理念を維持
(本質的な目的を決して忘れない、維持する)
・一貫性を追求
(目的に向けて、一貫した姿勢を示し続ける)
といったところ。
こういった起業、企業成長を目指す経営者、リーダーに対し、
本書では5つの段階に分けて警鐘を鳴らしている。
・第1段階 : 成功から生まれる傲慢
衰退の初期症状であり、謙虚さや真摯さが失われる段階。
成功している最中なので、自覚症状は少ない。
主な症状:
- 成功は当然という傲慢さが出てくる
- 経営の中核となる要素を無視し、目先の情報に走る
- 成功している要因を考えなくなり、深い見識が失われる
- 学習意欲が下がる
- 運による成功も、自分の力とみなしてしまう
・第2段階 : 規律なき拡大路線
衰退の第2段階であり、規律が失われ、
目先の利益拡大に走っている段階。
組織としての体力もあり、ある程度うまくいくため、
やはり自覚症状は少ない。
主な症状
- 短期的な成長の追及
- “大きな”組織であることを望む(単純な規模の大きさ)
- 関連しない分野への参入
- 主要ポストの適正人材不足
- 利益に目がくらみ、コスト軽視
- 官僚方組織へ(自由と規律がなくなる)
- 権力継承・権限委譲の混乱
- 個人利害の優先
・第3段階 : リスクと問題の否認
衰退の第3段階であり、現実を直視できなくなってくる段階。
自分に都合のいい情報のみを揃えるなど、
組織内での不協和音が広がってくる。
しかし、成長の“なごり”があるため、
衰退の症状がないと錯覚しがち。
主な症状:
- よいデータを強調、悪いデータを小さく
- 事実的根拠のない賭けの様な目標設定
- あいまいな(ただ心地よい)データでとる大きなリスク
- 意思決定が“なぁなぁ”に(議論を避ける)
- 責任の所在があいまい
- 外部要因に問題を転嫁し、内部要因を軽視
- 組織再編へ固執
- 経営者・リーダーの姿勢がより傲慢に(ワンマン化)
・情報を理解する努力が下がる
・現場と経営者・リーダーの距離が離れる
・俯瞰的視点と個別具体のバランスがなくなる
・反論が許されなくなる
・反省ではなく、非難のためにものごとを解剖する
・地位や特権の乱用
・第4段階 : 一発逆転策の追及
そしていよいよ現実的に衰退の坂道を転がり落ちるのが、
この第4段階となる。
第4段階ではすでに自覚症状も強くあり、
危機的状況は火を見るよりも明らかと成っている。
主な症状
- 特効薬を求める
- 救世主を求める
- 冷静さを失い、パニック的な対応をとりがち
- 革命や変革といった言葉が踊る
- 現実感のない、抽象的なビジョンばかりを売り込む
- 一時的な業績回復があっても持続せず、失望感が増える
- 給料のために働く従業員
- ビジョンは単なる宣伝文句と捉えられる
- 基本理念も軽視され、浸透しない
- リストラや無理な投資で財務力低下
・第5段階 : 屈服と凡庸な企業への転落か消滅
第4段階で衰退の道から脱出できなければ、
待っているのは最終段階である、転落・消滅。
要は、経営や組織運営をあきらめてしまった状態となる。
主な症状
- 基本理念をあきらめる
- ビジョンをあきらめる
- 企業の中核を担っていた事業をあきらめる
- 組織を継続する意欲がなくなる
- 自らの価値観を捨ててしまう
経営者、リーダーはこの5つの警鐘を観点として、
自らの組織を客観的に、かつ厳しく見直すことが求められる。
そして第5段階の症状については、
全てにおいて自らの“意思”に関わるものである。
つまり、
基本理念、ビジョンをあきらめず、
企業の中核となる事業を、
自らの価値観に基づいて、
信念をもって継続させようとすれば
復活の可能性はある、ともいえる。
もちろん、その上に具体的な施策は必須であるし、
早い段階で対応したほうが、衰退のリスクは避けられる。
常に組織の状況がどの段階にあるのか、
この本の内容をチェックリストのように使用して、
確認しておくことがいい手段なのかもしれない。