2012年1月9日月曜日

食べログにみる、ソーシャル・メディアの信頼性の問題

2012年のお正月。食べログで“やらせ”を行う不正業者の事件が発生しました。昨年2011年のお正月も“おせち騒動”があり、やはり「食」が話題になりました。お正月は「食」ネタで事件が起こりやすいんでしょうかね。

食べログ / kaidouminato



それはさておき、今回の食べログの不正業者の件、運営会社のカカクコムは
「不正業者を特定した際には、そのような行為の停止を強く要請し続けるとともに、応じない場合はさらに踏み込んだ法的措置も視野に厳正に対応してまいります。」
としており、不正業者排除には動いていくようです。

しかし、この部分だけを見ると
「やらせは業者に頼んでいるだけじゃないケースもある!」
という意見も出てきそうです。
これに対しては
「不正業者に限らず、2005年のサイト開設当初より口コミ投稿に関しては、全件チェックを行い、サイト利用規約等に則り、不適切な内容の口コミに対しては、修正や削除等の対応を行っております。」
と改めてカカクコムは説明しています。

とはいえ、ある新宿の飲食店では「食べログに10回以上レビューを書いている方で、☆4つくれたら、ビール1杯サービス!」なんてテーブルにPOPがあったりもします。あくまでもカカクコムができることはデータ的に特筆的に不正なものであり、この新宿のお店のように“ホンモノのレビューっぽく”書かれてしまったら検出は難しいのかもしれません。ちなみにそのお店をフォローするわけではありませんが、わざわざPOPを出さなくても十分においしいお店だと私は感じました。

さて、ここでもう少し今回の不正業者の問題を考えてみると、本件は食べログに限ったことではないことが良くわかります。今回の“やらせ”は口コミ系のサービス=ソーシャル・メディアでは起き得ることであり、ソーシャル・メディアからの情報の信頼性を問う問題であるのです。ちなみに今回の“やらせ”の口コミは、“ステルスマーケティング”という言われ方もします。

この“ステルスマーケティング”は、第三者を装って消費者に宣伝とは気付かれないようにする宣伝手法です。口コミだけでなく、雑誌の記事やテレビ番組、有名人のブログなどで最近見かける手法です。日本では法的にはなんら問題はありませんが、消費者が公正な情報から判断できなくなるため、倫理的な問題が指摘されています。なぜなら、やり方次第では消費者に対して不利益を与えるような結果になるからです。ちなみにアメリカでは法的に規制されています。

では、どうやってこの“ステルスマーケティング”、とくに口コミの“やらせ”に対抗すればよいでしょうか。単純に法規制してしまうことも一つの可能性でしょう。雑誌やテレビといったマスメディアには効果が期待できます。しかし、口コミについては十分とは言い切れません。個人レベルで発信する情報を規制し、管理することは、また別の倫理的問題をはらむからです。では、どうすべきか。その一つの解として、“サイバー空間上のアイデンティティによる信頼性の担保”、が考えられます。NRIが中心となって行っている、「OPEN ID」の利用です。

具体的には、
・サイバー空間上で共通のIDをつくる
・そのIDに紐付く行動履歴や発信された情報ログを分析
(当然、ユーザが許可した範囲で)
・信頼の格付けを行う
(分析した情報の量とその解析結果から格付け)
・IDに格付け結果を紐付けて公開可能な状態にする
というものです。

そしてこのIDで食べログのようなサイトにレビューを行うと
・レビューは通常通り記載する
・IDに紐付く信頼の格付けも公開される
・他のユーザは、信頼の格付けでレビュー結果を絞り込める
という環境が作れるわけです。


これにより“やらせ”による情報を排除した状態で、口コミサイトを利用できるわけです。完全に排除することは難しいかもしれませんが。(格付けをとった人が、“やらせ”コメントを書いたらNGですので。)


もちろん、諸々クリアしなければいけない技術的課題、倫理的課題などはあります。しかし、口コミの“やらせ”を防ぐこと、ひいてはソーシャル・メディアの情報の信頼性を担保するということは、今後“ソーシャル”が普及するほどに問題として大きくなっていきます。その解決策一つとして、法規制だけでなく、“サイバー空間上のアイデンティティによる信頼性の担保”は検討してもよいのではないでしょうか。