2012年1月30日月曜日

【ネタバレBookReview】パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ


ジェフ・ジャービス
NHK出版
発売日:2011-11-23
ソーシャルが普及する現代に必要なプライベートとパブリックの考え方が整理されています。そして、ビッグデータ時代の情報戦略のあり方、イノベーションのあり方を示す内容となっています。。ビッグデータの大きな潮流を踏まえれば、業種や立場に関係なくビジネスを考える人は読むべき本。とくにソーシャルへの取り組み、新しいイノベーションに悩むならばヒントをもらえると思います。

以下、要約に解釈を加えて整理します。


  基本的な考え方 = Publicness(パブリックネス)
Publicness(パブリックネス)はこの本の主要な考え方を表す新しい言葉であり、SNSなどの“ソーシャル”な仕組みをつかう個人や企業が持っているべき概念。パブリックであることを意味するものであり、具体的には
 1)情報・思考・行動をシェアすること
 2)人を集めること、または集まること
 3)プロセスをオープンにして、コラボレーションすること
 4)オープンであることに対する倫理のこと
といった意味があります。シェアやオープン、コラボレーション、プロセスといった近年ビジネスシーンを賑わしている言葉を包含した社会最適化のための概念のこと、ともいえそうです。


  パブリックネスのメリット
パブリックネスはソーシャルを利用する個人や企業にメリットをもたらします。
 ・つながりをつくることができる
 ・親しくなれる
 ・協力関係、コラボレーションが可能になる
 ・集合知が生まれる
 ・物事を発展させられる(ベータ版からの成長)
 ・偏見や誤解を解くことができる
 ・認知され、場合によっては名声が得られる
 ・社会的な力になる(ソーシャルな組織や行動 ex. アラブの春)
 ・隠蔽による危険を回避し、安全をもたらす


  プライバシーとパブリックの倫理
プライバシーを定義するならば、
 ・自分自身を特定する属性情報であり
 ・自分自身で情報を出すか出さないかコントロールするもの
となります。つまり、自分自身を特定する属性情報を、自分自身のコントロール外、つまり勝手に利用されたり公開されたりした場合はプライバシーの侵害となるわけです。

そしてこのプライバシーは、パブリックの中に存在します。基本的には全ての情報はパブリックであり、社会の中に属しています。そのなかで、自分が出したくない情報、隠しておきたい情報、コントロールしたい情報を努力にって確保しておくことで保たれるのが、現代のプライバシーといえるでしょう。つまりプライバシーとは個人のミクロ的な視点から見た場合の情報であり、パブリックとは社会のマクロ的な観点から見た場合の意味のある情報といえます。

このとき、プライバシーの情報にアクセスする他人は際には、どこまで知っても問題ないのか、どこからがダメなのかを理解しなければいけません。つまり、知る倫理が必要なのです。具体的には
・情報を盗まない
・何のために使うかをメイカクニする
・情報を守る
・情報源を明らかにする
・プライバシーの情報を持つ人が自分の情報にアクセスできるようにする
・不利になる情報は扱わない(制裁が必要な人を除いて)
・文脈を考えて意味を汲む
・プライバシー情報提供の動機を考慮し、その期待に応える
・プライバシー情報提供に価値を還元する
といったものです。

またパブリックに情報を発信する個人は、どの情報が意味があり、誰の役に立つものであるのかを考える=シェアする倫理が必要となるのです。具体的には
・気前よく分ける
・必要な情報をシェアする
・シェアする相手と共通の基準を使う(特異なファイル形式や、暗号めいた言葉にしない)
・パブリックなもの=みんなの知財を守る
といったことが必要となります。

これらプライバシーの知る倫理も、パブリックのシェアする倫理ともにソーシャルに触れる個人や企業が持っているべき倫理観です。これらをまとめたもの=オープンであることの倫理=パブリックネスとなるわけです。


  パブリックの注意点
パブリックであることが基本であるとしても、その扱いには注意が必要です。扱いを誤れば、プライバシーを守ることもできません。また、パブリックになることを恐れれば多くの機会を逸してしまうことになります。具体的には
 ・一度発信した情報は残ることを忘れない(完全には消せない)
 ・新聞の一面にのって困ることは言わない(大炎上になる)
 ・コミュニケーションの規模を大きくしすぎると対応できなくなる
 ・挑発には乗らない(さらなる攻撃を受けることになる)
 ・正常に判断できる状態で使う(酔っ払ってSNSをやると、不用意なミスをする)
 ・間違ったら素直に謝る、正直である(事態の沈静化ができる)
 ・寛大に対応する、いちいち食って掛からない(トラブルを巻き起こす)
 ・侮辱的な発言や行動はしない(人を馬鹿にした分、馬鹿にされる)
といったものです。


  パブリックの機能
パブリックはメディアとして、つまりSNSを通じて
 ・配信
 ・早期警報
 ・報告
 ・マーケティング
の機能を提供することができます。

しかも従来のメディアと比べ
 ・多様性
 ・柔軟性
 ・長期持続性
を発揮することが特徴です。


  パブリックを活用する企業の可能性
パブリックを活用することで企業は
・顧客と直接的な、オープンな関係を築き
・より多くの情報を顧客に発信し
・周囲の協力者と広範囲にコラボレーションし、
・従来型広告を使わずに顧客からの情報を活用したサービス提供を行い
・社会のエコシステムの一員として
・プラットフォームを提供する
ことが可能になってきます。つまり、パブリックは企業が競争力を発揮するための重要なオプションになるということです。

そして、その実現にはパブリックに問題を解決することが必要になります。そのプロセスとは、
・透明性を確保
・問題の明確化
・問題に対応できる人を集める
・解決策を定義
・実行する
というもの。BPMのプロセスに非常に似ています


  パブリックからイノベーションを起こすために
パブリックに対応し、それを利用し、ビジネスを展開していく=イノベーションを起こしていくためには、ここまでの議論を踏まえた原則が必要になります。その原則とは、
・誰もが情報に接続する権利がある
・言論の自由がある
・集会と行動の自由もある
・プライバシーが「知る」倫理だということを認識する
・パブリックは「シェア」する倫理だということを認識する
・情報は原則公開、必要に応じて非公開
・パブリックは公益をもたらすことを認識する
・すべての情報を平等に見る
・インターネットは広くいきわたるべき元の認識する
といったものになります。

これらはオープン・イノベーションの考え方と共通するものでもあります。つまり、パブリックとはオープンイノベーションのための不可欠な要素ともいえるのです。

それと同時に、ソーシャルが進むビッグデータ時代の社会で必要な倫理観であり、企業や個人をふくめ社会全体の共通概念となっていくものなのです。利用できれば機会を、今後より多く得ることができていくのでしょう。