日本での普及率が45%になったSNS(ICT総研発表資料より)。FacebookやTwitterといったグローバルに提供されているサービスが主流となっていますが、国産SNSも好調を維持しています。国産SNSのキープレイヤーの決算発表から、国内SNSのトレンドを整理してみます。
ソーシャル・ゲーム・バブルで高収益 ⇒ マーケットは2012年内に3000億円に成長へ
・プラットフォーム提供者
・コンテンツ提供者
に分かれます。いずれもSNS関連のサービス、とくにソーシャル・ゲームを提供することで軒並み収益を伸ばしており、特にプラットフォーム提供者が大きく収益を獲得しています。
現在はソーシャル・ゲーム・バブルといってもいい状態でしょう。ソーシャル・ゲーム市場は2011年度で前年比80%成長の2570億円、2012年度は30%成長の3429億円に達する見込みとなっています(矢野総研発表資料より)。この予測は広告収入を含まない、ゲーム販売およびゲーム課金のみで市場規模となっているため、広告収入を含めればさらに大きく成長していることが伺えます。
プラットフォーム提供はDeNAとGreeの2強対決 ⇒ 今後はグローバル競争へ?
プラットフォーム提供をしている企業としてあげられるのはDeNA、Gree、Mixi、CyberAgentの4社。このうち、2011年10月−12月期の決算発表をみると、Mobageを提供するDeNAは売上高が前年比16%増の341億円、経常利益が前年比14%減127億円。Greeは売上高が36%増の415億円、経常利益も36%増の224億円。DeNAとGreeの2強状態となっています。特にGreeの成長が非常に目立っています。
DeNAは2012年2月1日に中国検索最大手の百度と提携を発表。すでにAndroid版は2011年7月に、iOS版は同11月にiOS版の中国版Mobageを開始していることからも、今後は中国市場に積極的に打って出ていきそうです。その他にも中国、韓国、チリ、ベトナムのゲーム開発会社買収やカナダでの100%子会社設立など、グローバル体制へシフトしていく姿勢が見受けられます。
これに対してGreeも中国、韓国、アメリカのゲーム会社を買収。また、2月2日にはグローバル向けのプラットフォーム「Gree Platform」の支援企業として、ローカライズ5社、干すティング5社、デバック3社、ユーザサポート6社の計19社の名前を発表しています。DeNA同様にグローバルを見据えた戦略に積極的です。
こうしたDeNAやGreeに対して、一線を画して住み分けているのがCyberAgent。ゲーム分野では2社からは遅れていますが、アメーバピグに代表されるAmaba事業、多くのブロガーたちによって支えられる広告事業で事業としては安定している感はあります。現在のソーシャル・ゲームのトレンドに対応してゲーム分野にも手を広げるのであれば、いかにDeNAやGreeとすみわけ、両者の直接対決に巻き込まれないようにするかが課題になるでしょう。
日本のSNSの代表格であるMixiは苦境に立たされています。SNSとしてはFacebookやTwitterにかなり押されていますし、Mixiゲームも展開していますがDeNAやGreeと比べれば差は歴然。現状はユーザ流出をどこまで押さえ、Mixiの独自色を出していくか、が重要な課題になっているといえるでしょう。
コンテンツ提供も活況 ⇒ 元請ポジションに入れればチャンス
コンテンツの提供元としては、GMOなどのITサービス分野の企業と、スクエア・エニックスやコナミなどのエンターテイメント系の大手企業に大別されそうです。いずれも企業としての業績では減収などありますが、ソーシャル・ゲーム分野では収益を伸ばしている状態。ベンチャーにとっては新しいビジネスチャンスに、大手にとっては成熟していたゲームビジネスのカンフル剤になっているといってよさそうです。
なぜ、このようにコンテンツ提供者が活況になっているかというと、参入の障壁が低いことが要因に挙げられます。DeNAやGreeといったソーシャル・ゲームのプラットフォームに対応したコンテンツを制作できれば、コンテンツ提供者として収益を上げやすいのです。一定の資金力、開発チームを確保し、コンテンツを制作するノウハウを持っていれば十分なチャンスがあるわけです。
ただし、いわゆるITゼネコンのような産業構造になってきている点には注意が必要です。一次請け、二次受け、三次請けの業者が存在し、発注元(ソーシャル・ゲームで言えばプラットフォーム提供者)から遠ざかれば遠ざかるほど、中抜きの回数は増え、得られる収益は少なくなります。当然、実務は下請けが行うわけですから、だれしもがソーシャル・ゲームで一儲けできる、といったわけではないのです。
ソーシャル・ゲームに潜むリスク ⇒ ビジネスとしての倫理観が必要
ソーシャル・ゲームがユーザにとって気軽に始められる分、飽きがくるのも早い、という特徴があります。また、今まではフィーチャーフォンを中心に提供してきていましたが、今後はスマートフォン向けのサービスを拡大していかなければいけません。つまり、
・コンテンツのライフサイクル
・提供デバイスの多様化
といった点は、目先の問題として解決しなければならないのです。今後FacebookがOpen Graphに力を入れたり、Google+がアプリ提供を始めたりと、グローバルなSNSでもゲーム関連のサービスは増えていきます。コンテンツの提供形態をシンプルにし、ユーザを継続的に惹きつける仕組みを創ることは、今後も重要な課題になるでしょう。
また仕組みづくりの前提として、ソーシャル・ゲームの倫理観自体も再定義することが必要になります。「気がついたら有料アイテムを使っていて、多額の請求がきた」「子どもがいつの間にか有料サービスを利用していた」といったことが起きないようにしなければ、社会的な価値は認められないのです。
まとめ:現状はバブル、継続成長には社会的な意義付けが必要
2012年現在はソーシャル・ゲーム・バブルにあるといってもいいでしょう。そしてその中心はプラットフォーム争いを行うDeNAとGreeの2強に絞られています。この2社はグローバルで成長できるかどうかが今後の課題です。この2社以外の企業については、どれだけ上手にパートナーシップを組か、または住み分けるか、といったことあたりが当面ソーシャル・ゲームで収益を獲得するための課題です。
ただし、現在のソーシャル・ゲームのビジネス構造は長期的に事業継続するためのビジネス構造化というと、疑問符がつきます。なぜなら、コンテンツを単純に消費しているだけであり、継続発展するモデルとしては未熟だからです。ソーシャル・ゲームをバブルで終わらせるのか、それとも継続発展する事業とするのかは、今後数年内に社会的に意義のある事業構造、つまり社会の価値循環の中に位置づけられる事業と成れるかどうか、にかかっているように思います。