プレジデント社
発売日:2010-07-06
競争環境がさらに複雑になっている昨今、企業戦略の方向性を考えるためのシンプルな指針を与えてくれる一冊。「上質か手軽か」。このキーワードをおさえておくだけで、経営戦略にも、商品開発にも大きな方向性が生まれます。戦略に迷いがあるときには、非常に後押しをしてくれる本です。経営者や経営企画、商品企画などに携わる方にはオススメです。
以下、解釈を加えながらの要約です。
基本的な考え方は「上質さと手軽さの天秤」
まず、言葉の定義を整理すると
・上質さ
もごのと全体から得られる体験が優れていること
得られる具体的な経験、その経験のオーラ(ブランドイメージ)、個性(差別化)によって構成
「愛される」存在であること
・手軽さ
ものごとが利用しやすいこと
手に入りやすさと、値段の安さによって構成
「必要とされる」存在であること
となります。この2つは常にトレードオフの関係にあり、4象限に整理することができます。
・手軽ではないが、上質である
⇒ 高級な商品、貴重な体験 (ex.クラシックコンサート、旅行)
・上質ではないが、手軽である
⇒ 身近な商品、必需品 (ex.コンビニ、iPhoneアプリ)
・上質であり、手軽である
⇒ 幻想であり、存在しない
・上質でもなく、手軽でもない
⇒ 不毛地帯にある商品、イノベーションが必要 (ex.3Dテレビ、なかずとばずの芸人)
つまり、上質か、手軽かの頂点を目指すことが戦略上重要になります。その実現方法に強く影響するものがテクノロジーです。テクノロジーの発展により、上質や手軽が意味するレベルが押し上げられることがあるからです。例えばiTuneは、音楽の手軽さを“CDショップで3000円で買える”というレベルから、“パソコンでワンクリック、場合によっては無料”というレベルにしました。
「上質さと手軽さ」を踏まえた戦略のアプローチ
「上質さと手軽さの天秤」を前提とした場合、戦略のアプローチは
・上質さと手軽さのどちらの頂点を目指すかを決める
・いずれの場合も、常に改善を怠らない(発展し続けるための努力をする)
・具体的な戦略は、ターゲット市場や自社のブランド、ビジネス環境を踏まえて策定する
の3点にまとめられます。このとき、今まで手軽路線だったものを上質路線に切り替える、またはその逆を行うのであれば、かなりドラスティックに方向修正をすることが必要になります。間違っても、「手軽さ+上質」の両立は目指してはいけません。両方をハイレベルで実現するという幻想に惑わされ、不毛地帯に陥ることになります。
また、このとき以下の2点もあわせて考慮することが必要です。
・社会的な価値
・市場の破壊と創造
上質さや手軽さを追求する場合でも、独りよがりでは意味がありません。社会的に意味のある存在=「社会的な価値」のある存在になることが求められます。その社会的な意味が、顧客から愛される状態、必要とされる状態につながっていくのです。
また、新しいビジネスが登場したり、市場に新商品が投入されると、既存の市場構造が壊れることがあります。そしてまったく新しい市場が創造されることがあります。単一の市場だけをみるのではなく周辺市場の関係性をみて、どの市場を奪い、どのような市場を創造するのかを考えることが必要です。ドラッカーもいっているとおり、現代は市場(顧客)を創出する企業が強いのです。
戦略のヒント
「上質さと手軽さ」がトレード・オフの関係性にあることを考えれば、上質さで成功しているビジネスの対局、または手軽さで成功しているビジネスの対局にはチャンスがあるのです。既存の上質または手軽なビジネスに注目が集まっていたために、意外ととぽっかりマーケットが空白になっていることがあるのです。「市場のホワイトスペースを探せ」というオーダーに対して、これは一つの解を与えることになるでしょう。
ただし、市場を見つけてくるだけでは不十分です。なぜならトレードオフとは、片方を得る代わりに片方を捨てること。つまり、捨てる勇気が必要になります。核となる信念・哲学を持ち、厳格な決まりをもって、強い意志を示す=明確な判断・意思決定を行うことが必要になります。ここで必要となるのが、ビジョナリーカンパニー2で定義されている「ハリネズミの概念」。ようは、
・自社にできて
・自社がやりたいことで
・社会に必要とされている
という3つの条件を満たすポイントにフォーカスすることです。これにより、上質か手軽かを選び、追求し、自らの市場ポジショニングを確立していくことができるのです。