2012年2月29日水曜日

【ネタバレBookReview】 ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

井上 明人
NHK出版
発売日:2012-01-25
サービスが高度・多様化を続ける現代、ITサービス(特にコンシューマ向け)を中心に注目されつつあるのがゲーミフィケーションです。ただ、あまり明確に定義されたり、解説されたりしている本がないのが現状。そんな折に直撃的な「ゲーミフィケーション」とタイトルがついているので、思わず手にとって読んでみました。しかし、内容的にはゲーミフィケーションというよりは、ゲームの作り方をまとめているといった形。概念レベルでの整理も少なく、技術的な側面、制作的な側面が中心となっています。ゲームを作りたいと思っている方には、方法論として知っておくことに損はなさそうですが、ゲーミフィケーションを戦略やマーケティングに応用しようと考えている方にはこの本は参考程度にとどめておいた方がよさそうです。

以下、要点と解釈の整理

  ゲーミフィケーションとは
この本での定義を引用するならば「ゲーミフィケーションは補助線を引くこと」となります。ユーザの行動や、ユーザとの関係性にゲームという要素を加えるためのテクノロジーの総称であり、そのテクノロジーを利用することで商品やサービスの提供機会を増やしていく、といったところです。

なお、この定義はSNSに代表されるソーシャルを前提としています。ソーシャルでのアクションを強化していく、つまりソーシャルでのコミュニケーションをより活発にしていくためにゲームを活用する、といった内容となっています。テクニック論での定義となっているため、ゲーミフィケーションの本質をつかむためにはより深い思慮が必要であると感じています。


  ゲーミフィケーションによって提供される価値
この本で説明されるゲーミフィケーションの提供価値は、基本的にコンテンツの話です。どのようなコンテンツが面白いのか、といった観点でまとめられています。決して間違いではありませんが、ゲーミフィケーションはユーザエクスペリエンスの一つの提供形態をあらわすものでもあります。コンテンツはユーザエクスペリエンスを構成するごく一部の要素であるため、観点としては十分とはいえません。本書に加えて、ユーザエクスペリエンスに関する本を読むことがゲーミフィケーションの理解には必要となります。


  ゲーミフィケーションの実践
ゲーミフィケーションを実践するためのステップが後半にまとめられています。ゲーム制作を行いたいという方は、この部分が参考にできるのではないでしょうか。

STEP1: 着想する
・すでにある行動に着目し
 - 関係性を強化する
 - フィードバックを可視化する
 - 健全な中毒性を持たせる
・または新しく作り出すために
 - 新技術を利用する
 - 既存のルールを融合してみる
 - ビジネスモデルを作りあげる
といったアクションが必要になります。


STEP2: つくりあげる
・プレイヤーが楽しむ順序をつくる
 - アンロック : 徐々にできることを増やす
 - レベルデザイン : ユーザの習熟度に合わせて難易度を設定する
・ゲームのメカにクス(仕組み)を設計する
 - ランキング(ユーザ同士の競争)
 - 経済システム(お金で変える仕組み)
 - クイズの利用
 - 強制力の調整
・上記を組み合わせてデザインする

STEP3: 洗練する
・テストを繰り返して修正する
・運営時の改善を行う(ソーシャルゲームが前提)


  最後に、個人的な感想
本書はゲーミフィケーションに興味を持ち、ユーザエクスペリエンスの一分野と捉えて読む内容とはいえません。要点も絞れておらず、全体のストーリーがわかりづらいという印象が非常につよくありました。少なくともサブタイトルにある、「ゲームがビジネスを変える」という言葉に対し、どのように変えるのかは十分に語られていません。ビジネスを帰るというのであれば、
 ・マーケティングの考え方
 ・イノベーションの方向性
 ・ビジネスプロセスのある方
 ・組織の姿
などについて、現状をふまえた上で、ゲーミフィケーションによって同変わるのかを定義し、その可能性を示唆すべきではないでしょうか。ゲーミフィケーションについての示唆が欲しかっただけに、非常に本書の内容は残念でした。