2012年3月12日月曜日

【ネタバレBookReview】ホールシステム・アプローチ―1000人以上でもとことん話し合える方法

香取 一昭
日本経済新聞出版社
発売日:2011-09-22
私たちの社会は今、大きな変動期にあります。この変動期では単純な過去からの学びだけでは解決できない問題がたくさんあります。まったく新しい環境、新しい問題に対峙するには、未来を創造し、未来に学ぶことが必要です。U理論をはじめとするコンセプトをもとに、多くの人を巻き込んだ対話を行うことで、新しい未来を創造するアプローチ。それがホールシステム・アプローチです。社会問題、企業、個人。これから先、問題に対峙することが必要な人は、今までのシステムに加え、このホールシステム・アプローチを理解することは必ず必要になります。

以下、要約と解釈の整理です。


  ホールシステム・アプローチとは
できるだけ多くの関係者が集まって、自分たちの課題や創造すべき未来について話し合う手法のこと。ただし、ただ話し合うのではなく、この課題の解決や創造すべき未来の実現に向けて、互いの中にあるわだかまりを廃し、新しい可能性を見出し、その実現への意思を共通化するというもの。情報共有ではなく、真なる理解の共有をするための手法、といえます。このため
 ・ダイアログ=対話をベースにしており
 ・ダイアログにより新しい知識を生み出すことに大きな価値を置き
 ・関係者を幅広く参加させ
 ・参加者の自主性・自立性を最大限に活かし
 ・一貫してポジティブな場を提供し
 ・全体脳=集合知を利用する
ということが特徴となっています。

このホールシステム・アプローチが必要になっている背景には
 ①社会全体がより複雑に関連するようになった
 ②急速に環境が変化するようになった
 ③従来型(ケーススタディなど)の組織変革では解決できない問題が増えた
 ④関係者の合意、意思の共通化へニーズが高まっている
 ⑤新しい未来の創造=イノベーションが強く求められている
といったものがあげられます。これは昨今、野中郁次郎氏の知識創造企業や、オットー・シャーマー氏のU理論への注目が急激に高まっている要因でもあります。知識創造企業を野中氏と共著した竹内弘高氏は現在、ハーバード・ビジネススクールで競争戦略のマイケル・ポーター氏と共同でクラスを持っているほどですから。

こうした背景もあり、ホールシステム・アプローチは、知識創造企業、U理論に加えて、ダニエル・・ピンクのモチベーション3.0やコトラーのマーケティング3.0なども取り込んで、実践レベルに落とし込まれたもの、という内容になっています。


  ホールシステム・アプローチ実践のポイント
まず、ダイアログのための基本要素として
 ・安全な場 : 対立しても関係性が壊れず、全員が対等に話せる場
 ・参加者の姿勢 : オープンに聴き、話せる
 ・意識の集中 : テーマに集中して議論できる
というものを用意して、会話の質を向上させることが必要です。逆に言えば、これだけで質の高い集合知を得ていくことが可能になります。

そして、目的や参加者、会場などを念頭に、あらゆるミーティング手法を駆使してダイアログを進めていきます。このとき
 ・結果と成果を明確化する(無目的にやるのはただの雑談)
 ・プロセスとして展開する(単発ではだめ)
 ・全体を巻き込む(関係する人の全て、または代表者、中心人物を巻き込む)
 ・カスタム・メイドする(固定化された方法は通用しない)
という4点が必要となります。

その上で
 1・全体を感じ取る・俯瞰して見つめる
 2・未来の可能性を思い描く
 3・実現に向けた検討項目を洗い出す
 4・行動計画を作成する
というステップを踏んでいくことになります。

ただし、ホールシステム・アプローチは時間がかかる点には注意が必要です。
 ・スピード・効率性が重視される場合
 ・情報伝達・指示を目的とする場合
 ・結論が決まっている場合
はホールシステム・アプローチは向きません。それぞれにあったファシリテーションが必要です。


  ホールシステム・アプローチに使う主な手法
ホールシステム・アプローチで紹介されるミーティング手法は4つあります。

・AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
あるがままの現在を見つめ、肯定的に受け入れ、新しい可能性を探求する手法です。
肯定的なテーマ設定をしたのちに
 ・Discovery : よいところ=ポジティブコアを探す
 ・Dream : 可能性を描く
 ・Desing : 実現方法を考える
 ・Destiny : 変革を持続させる
のサイクルを継続してきます。
参加人数は何人でもできることが特徴であり、ホールシステム・アプローチのベーシックな手法ともいえるかもしれません。

・OST(オープン・スペース・テクノロジー)
参加者が自ら場作りをして、対話を重ね、具体的なテーマに対する実現の可能性を探求する手法です。
 ・オープニング : 全体の流れを共有
 ・検討テーマの提案 : 参加者が検討テーマを自ら設定
 ・マーケットプレース : どのテーマについて検討するかを参加者が選ぶ
 ・分科会 : テーマごとに分かれてダイアログ
 ・プロジェクトの提案 : ダイアログの結果を実行するためのプロジェクトを参加者が提案
 ・実行チームの編成 : 参加者が自らの意思でやりたいプロジェクトを選ぶ
 ・クロージング : 全体の振り返りとシェア
という流れで行います。
数名から数千名規模でも実行でき、実行計画を作り上げるときに有効な手法です。テーマの提案の前にワールドカフェを実施しておき、セットで開催すると一連のホール・システムアプローチになります。

・フューチャーサーチ
特定の課題に関係する人を一同に開始、過去から現在、そして未来に向けてさまざまな角度からダイアログを重ねてビジョンとその実現に向けた計画に落とし込むための手法です。
3日間のプログラムが推奨されており、
 ・初日は過去から現在の外的な状況の認識共有
 ・2日目は現在の内面的な状況を共有し、未来へのシナリオ作り
 ・3日目でビジョンを策定し、実行計画へ落とし込み
という流れで行います。
25名以上で64名が理想的な規模。企業やプロジェクトの合宿で有効なアプローチでしょう。

・ワールドカフェ
カフェのようなリラックスした空間でダイアログを重ね、アイディアを融合して集合知を作り上げるアプローチ。
 ・テーマ設定
 ・3回(またはそれ以上)のラウンドに分けた4~6人での対話
 ・ラウンドごとにテーブルを移動してメンバーはシャッフル
 ・最後に全体で振り返り
という流れ。アイディアを新たに生み出したり、それを収斂したり、互いの共通認識を得るという点で有効な手法。しかも他の手法に比べると手軽に開催することができます。実行計画に落とし込むためにはOJTをワールドカフェの後に開催することが必要になります。

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