2012年3月17日土曜日

Google Map API有料化でAppleなど離反 ⇒ 有料化とユーザ接点確保の矛盾を抱えることになるかもしれない

Googleの地図(Google Maps)のAPIが2012年3月1日より、1日25,000ダウンロードまでは無料、それ以上は1000ダウンロードに付き4ドルが課金されるようになりました。これをうけて、 AppleやForsquareなどはGoogle Maps APIの利用を止めて、Open Street Mapに切り替えています。やはりGoogleといえど、コンテンツは無料で提供しなければビジネスは立ち行かないのでしょうか。

Google Maps - Austin "Street View" / Tim Patterson



  Google Maps API 離反の理由 ⇒ 大口ユーザーは高コスト負荷
Google Maps APIから離反する動きはAppleやForsquareだけではありません。単純に言えばGoogle Mapsをサービスに組み込んでいて、1日25,000ダウンロードを越えるWebサイトはすべて見直す必要があります。

例えば一日10万ダウンロードあった場合は、
 75,000ダウンロード分 = 1000ダウンロード × 4ドル = 75 × 4ドル = 300ドル
が必要になります。これを月次換算すると、300万ダウンロード=9000ドルのコストがかかります。これまで無料で使えたことを考えるとかなりのコスト負担。収益性の低いサイトであれば、一気に赤字転落という可能性も十分に考えられます

ちなみにGoogle Maps APIには以下の通り細かい価格設定がされており、利用するサービスによってはさらにコスト負担を強いられる可能性もあります。
 ・Google Maps  : 通常の一般的なタイプ
   1日上限 25,000ダウンロード
   超過料金 4ドル@1000ダウンロード
 ・Styled Maps : 地図デザインを変更できるタイプ
   1日上限 2,500ダウンロード
   超過料金25,000ダウンロードまで) 4ドル@1000ダウンロード
   超過料金25,000ダウンロード以上) 8ドル@1000ダウンロード
 ・Maps API v2 : 古いバージョンのAPI
   1日上限 25,000ダウンロード
   超過料金 10ドル@1000ダウンロード
 ・Street View Image API : ストリートビュー
   1日上限 25,000ダウンロード
   超過料金 4ドル@1000ダウンロード    

加えてGoogleの個人情報管理のポリシー変更もあいまって、Google Maps API有料化のタイミングで離反を検討しているケースが増えてきていると推測できます。


  Googleのフリー戦略に限界? ⇒ 見据えているのは今後の収益構造の変化
Googleはこれまで多種多様なコンテンツを無料で提供してきました。この結果、他社の有料サービスの大きな脅威となっています。しかしながら、同時に彼らはその“他社の有料サービス”の顧客でもありました。“他社の有料サービス”を購入して、Googleはそれを自社サービスに組み込んで無料提供しているのです。競合であり顧客であるという複雑な関係性の中でも、これまでは“無料”を武器に強力にビジネスを進めてきていました。

ところが2012年2月にちょっとした事件が起きます。Googleの地図の無料提供が反競争行為に当たるとして、フランスの裁判所より賠償金50万ユーロ + 罰金1万5000ユーロの支払い命令が下ったのです。この判決は金額としては小規模ですし、フランス1国内だけの話。しかしながらこの1件の判決は、他国で同様の訴訟が起きる可能性、そして地図以外の分野での訴訟が起きる可能性を示唆しています。つまり、賠償リスクを負ってしまっているということです。しかも単に賠償するだけにとどまらず、“他社の有料サービス”を購入している場合はその購入価格が引き上げられる可能性=サービス原価が高騰するリスクも負っているのです。

加えて今後FacebookがIPOを控えており、Web広告ビジネスの主戦場は検索サービスからSNSへと移っていく可能性があります。完全にSNSに切り替わるということはありませんが、少なくともGoogleが提供している広告サービスのシェアが減少する可能性は十分に考えられます。なぜなら、Google+を展開しているものの、GoogleはSNSに弱いからです。したがって、将来的な広告サービス売上の減少のリスクも高まってきていると考えられます。

サービス原価の高騰、および将来的な広告サービス売上減少のリスクがあるとすれば、Googleとしては新しい収益源が必要となります。そこで出てきた策の一つが、コンテンツの利用量に応じた課金システムといったところでしょう。サービス原価の値上がり分を吸収し、売上げ減少分をカバーする、といったところに狙いがあるのかもしれません。


  まとめ:Google Maps API有料化は矛盾を超えられるかが鍵
Google Maps API有料化は将来の収益構造を考えると、Googleとしては必要な戦略なのかもしれません。しかしながら、ここに一つの矛盾が生まれる可能性があります。そもそもGoogleは広告サービスを展開するために、ユーザに対して“手軽”に利用できるサービスを増強して、ユーザ接点を徹底的に増やしてきました。しかしながら、Google Maps API有料化はAppleやForsquareなどが離反しているように、ユーザ接点を減らすことにもつながっています。単純にそれが広告サービスへ影響するものではないにしても、長期的にはこの矛盾が何かしらの影響を与える可能性は考えられます。

いかにして“有料化”と“ユーザ接点”の矛盾を超えるかが、今後Googleの戦略上の鍵となるでしょう。逆に言えば、利用者としては“有料サービス”と“利用できるGoogleのユーザ接点”のバランスを見極めて、チャネルとして活用することが求められてくるのではないでしょうか。