2012年3月8日木曜日

「ビジネスがセマンティックに求める未来」 セマンティックがもたらす情報に対する価値観の変化


※2012年3月8日に開催されたセマンティックWebコンフォレンスのパネルディスカッションに出演した際の資料解説です。


LODの取り組みを始めていくことで、そしてセマンティックを実現していくことで、この先私たちは徐々に“ビッグデータ”を手なづけていくでしょう。そして“ビッグデータ”を利用することで、少しずつ新たな価値が創造され、小さな変化が社会に積み上がっていきます。やがて積みあがった小さな変化が、社会に、そしてビジネスに大きな影響をもたらすことになります。



“ビッグデータ” による変化や影響はさまざまな場面で出てきます。しかしながら、もっとも社会に、ビジネスにインパクトを与える変化は、私たち一人ひとりの情報に対する価値観の変化です。価値観は私たちの行動を決める最大の要因であり、モノが欲しい・サービスを利用したいというニーズの根源です。“ビッグデータ”を手なづけることで情報との接し方が代わり、私たちの情報に対する価値観は大きく変わっていきます。この変化を捉え、影響を読むことができれば、将来の社会に、そしてビジネスに備えることが可能になります。

では、具体的にどのように私たちの情報に対する価値観は変わっていくのでしょうか。それにはまず、情報に対する価値観の考え方を整理することが必要です。

もともと情報は「存在」しているだけで価値がありました。かつて集落で長老とよばれる人たちが尊敬を集めていたのは、より多くの知識をもつ存在だったからです。

しかし、誰かが持っているだけの情報は、その人がいなければ伝えることができません。そこで情報が「記録」されていることが価値になりました。例えば本がなければ私たち人類は多くの知識を共有することもなく、宗教が広まることもなかったでしょう。

「記録」の次に求められる価値は「保存」です。いくら「記録」しても一過性のものであっては意味がありません。図書館や博物館が人類にとって非常に重要な価値を持っているように、「記録」されたものが「保存」できること、「保存」されていることに価値が置かれるようになるのです。

「保存」した情報は使われる機会も増えていきます。そうなると今度は必要な情報を簡単に見つけ出す仕組み、つまり「検索」できることに価値が移ってきます。今ではほとんどが電子化されていますが、図書館は蔵書をカードに書き記して検索できる仕組みが古くから利用されていました。

そして「検索」された情報は、それ一つだけで必ずしも十分な答えを与えてくれるとは限りません。いくつかの情報を一ヶ所で繋ぎ合わせる、つまり「結合」できることが必要となります。法律の判例集、医療の症例集などの専門書が価値を持っていることもその一例でしょう。なお、ここでいう「結合」には、情報の収集(アグリゲーション)の意味も含んでいます

しかし、「結合」した情報には重複するものや不必要なものが含まれていることもあります。また、単純に「結合」するだけではわからない情報が眠っていることもあります。そこで次に「分析」できること、「分析」されていることが求められます。弁護士や医者などの専門家による報告書がもつ価値がその例に当たります。なお、ここでいう「分析」には、情報の整理(キュレーション)の意味も含んでいます

ただ「分析」された情報にも一つ問題があります。色々な観点から「分析」を重ねた結果、価値のある情報には違いはないのですが、理解するためには難しい内容になってしまうことが少なくないのです。実際、専門家の報告書は確かに重要なことは書いてあるのですが、素人が簡単に理解できるものではありません。そこで「直感」的にわかりやすくすることが求められるようになります。人生の教訓などをこどもにもわかるようにするために仕立て上げられた童話や童謡が例としては挙げられます。

「直感」的にわかりやすい情報を得れば、あとは行動するだけです。しかしながら、実際にはどういう行動をとればいいのか迷ってしまうことも少なくありません。そこで最後に求められる価値が行動そのものを決める「意思」です。信じることができるカリスマ的リーダーの声、先人の英知が示す道のように、“どういう行動を取るべきか(=行動への意思決定)”それ自体を示す情報が高い価値を持つようになるのです。

こうして示された「意思」に従い行動を続けるとどうなるでしょうか。自分の「意思」がなく、誰かの「意思」に従うだけの行動に疑問をもつようになることは想像にたやすいでしょう。そしてその疑問に向き合うことで、再び深くものごとを考え、まったく新たな情報(この場合は思想といったほうがいいかもしれません)が生まれてきます。結果、生まれた情報は、「存在」するだけで影響を与えるだけの価値を持つようになるのではないでしょうか。

このように情報に対する価値観は「存在」「記録」「保存」「検索」「結合」「分析」「直感」「意思」とつみあがっていき、そして再び「存在」へと戻ってきます。すくなくとも過去の人類の歴史をみると、この価値観の変化は説明することができます。

では、この価値観の変化を現代のビジネスに当てはめてみたらどうなるでしょうか。まず、「存在」の価値を提供しているのは、特定領域の技能・知識を持っている人・職人でしょう。そして「記録」はマニュアル、レポートなどの文書、「保存」はデータベースがその価値を提供しています。そして「検索」の価値を提供しているのは、インターネットの検索エンジンです。その証拠にGoogleはいまや世界的な企業にまで成長しています。そして現在、クラウド上でのマッシュアップがサービスとして普及し「結合」の価値を提供するまでにいたっています

つまり、今後提供されていく価値は「分析」・「直感」・「意思」だと考えられるのです。すでに「分析」についてはアナリティクス・サービスの提供が一つのビジネストレンドとなってきています。そして「直感」は、ユーザのリアルな行動と融合するO2Oサービスなどで価値が具現かされていくでしょう。さらに「意思」の価値、つまり私たちの行動を具体的に提案するサービスとして、セマンティックを利用した行動提案サービスなどが提供されていくと考えられるのです。




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