2012年5月18日金曜日

運転に、食材管理に、実用化間近の人間の感覚を補完するセンサー技術 ⇒ 便利さだけでなく社会問題の解決への貢献も


センサー技術を利用すれば、人間の感覚を補完して行動を支援するサービスを生み出していくことができます、実用的なサービスに転換するための研究も産学官とわず行われています。

dandeluca

  農産物監視センサー技術で野菜・果物のロス低減 ⇒ 世界の食糧問題解決への一歩に
MITのTimothy Swager 教授らの研究グループが発表したのは農産物監視センサー技術。このセンサーはナノテクノロジーを応用して果物や野菜の成熟を促すエチレンガスを検出し、熟れ具合を判別することに役立ちます。もともとは軍事用に開発されていた爆発物や化学兵器を検知する技術を応用したもの。ダンボールにセンサーを仕込んで、熟れすぎてしまう前にさばけるようにすることが目的であり、スーパーや飲食店などでの利用を見込んでいます。

現在、グローバルレベルでは食糧問題が注目を集めています。アフリカを中心に人口が爆発的に増えており、2011年10月31日に70億人に到達、2050年には90億人を悠に越えるといわれています。となれば、人びとが生きていくための資源の確保は争点になり、特に食糧の確保は重要な問題となっていきます。現在も10億人弱の人びとが世界では飢餓に苦しんでおり、幼い命が失われているという状況があります。今後、このまま人口が増えていけば、飢餓の状況は悪化し、食糧をめぐる戦争が起きる可能性も否定できません。

これに対し、先進国を中心に食糧廃棄率が高いという状況もあります。日本の場合は、年間5000万トンもの食糧を輸入しながら、そのうち1940万トンを捨てています。この廃棄料は5000万人分の食糧に匹敵。アメリカ農務省によると、アメリカ国内のスーパーでも果物や野菜の10%は廃棄されています。食糧が不足する人たちがいながら、食べきることができずに廃棄される食糧がある。このパラドックスが現在の世界の食糧事情なのです。

今回のMITのセンサーはこうした食糧事情の改善に一石を投じる技術になるかもしれません。先進国で食糧があまらない、必要な量を必要なだけ必要なときに供給できる仕組みを作ることに貢献できる可能性があるからです。もちろん、センサーだけでは不十分ですが、食糧の冷凍技術・保存技術、物流管理システムなどを併用し、かつ消費者に対する教育を行うことで、食糧をめぐるパラドックスを解決することに期待ができます。


  センサーで自動車運転サポート ⇒ 取得したデータが高度ITSの実現に
名古屋大学とトヨタは共同で、自動車の運転手の目の動きをカメラセンサーで読み取って注意力の度合いを判別する技術を開発しました。運転手が眠くなっていたり、注意力が散漫になってきたときに、目の動きが鈍くなることに着目。目の動きが鈍くなったことを判定し、運転手に警告を出す仕組みに応用するとこのと。ドライブシミュレーターを使った実験では約7割の被験者の注意力低下を判別。2012年秋には自動車での実験を行う予定です。

また、名古屋大学はデンソーとも共同研究を行い、運転手の運転操作の傾向から危険を予測するシステムも開発。15分後との速度、アクセル操作、車間距離などをセンサーで取得して傾向を分析。運転操作がこの傾向からずれてきた場合には危険な状態と判別して警告を出し、さらには自動的にブレーキをかけるなどの運転サポートを行う仕組みとなっています。実用化されれば、ビッグデータ・アナリティクスをO2Oに適用した事例になりそうです。

すでに実用化されているものではJUKI株式会社が提供しているスリープバスター。座席シートにセンサーを設置し、運転手の心拍数や脳波を取得して注意力の状況を判別。注意力が低下してくるとコントローラー画面から「渇!」と注意喚起されます。長距離運行を行うトラックやバスで採用され始めています。

凄惨な自動車事故が相次いでいる昨今、こうした技術を利用することで交通の安全が守られることに非常に高い期待感がもてます。また運行の安全だけでなく、運転手の疲労状況も管理できるため、特に物流関係の仕事に従事する人にとっては健康管理に役立つ仕組みにもなってきます。また、こうしたセンサーから得られた情報を取得し、分析を重ねれば、道路交通システム全体に再活用でき、高度ITSシステムの実現にも貢献することが期待できます。


  まとめ:人間の感覚を補完するセンサーが社会問題解決に貢献
農産物監視センサーも自動車関連のセンサーも、共通していえることは人間の感覚を補完していること。一人ひとりの主観的判断では捉え切れていない情報を、客観的な数値データに基づいて冷静に提案してくれる仕組みとなっています。つまり、人間の感覚を補い、より適正な判断を促す仕組みとなっているわけです。

このセンサーで人間の感覚が補完されることで、私たちは主観的な情報と客観的な情報の双方を併せ持つことができます。結果、今まで見えていなかった問題解決の手段を手に入れる可能性が高まります。社会問題の解決にセンサー技術は大きく貢献できる可能性があるのです。

しかしながら、センサーはあくまでも道具。全てをそこに頼ることはできません。人間が主観的な判断を、倫理観・社会的意義に基づいて行うことが前提になります。センサー技術を活用する分、私たち一人ひとりは社会倫理を学ぶことがより重要になってくるのではないでしょうか。