2012年5月30日水曜日

【ネタバレBookReview】フューチャーセンターをつくろう ― 対話をイノベーションにつなげる仕組み

プレジデント社
発売日:2012-04-24
イノベーションを起こそうとするとき、一人で考えていてもなかなか難しいものです。同じ組織の中に閉じて議論をしていてもやはり難しい。しかし、多くの観点で、多くのつながりをつくり、その中での対話には全く新しい可能性がたくさん転がっています。それを実現する場がフューチャーセンター。このフューチャーセンターをどうやって作っていくか、そしてどうやって運用して形にしていくかがまとめられたのがこの「フューチャーセンターをつくろう」です。イノベーションに悩む個人も、企業も、そのほかの団体も、一つの突破口を見つけるためのヒントとして参考にすることをオススメします。

以下、要約と解釈です。

  フューチャーセンターとは ⇒ 組織を越えた知識創造の「場」
フューチャーセンターは「未来の知的資本を生み出す場」であり、北欧が発祥となっています。名づけの親はナレッジマネジメントの分野で研究をしている、スウェーデンのレイフ・エドビンソン教授。いうなれば、ナレッジマネジメントの一つの仕掛としての「場」がフューチャーセンターなのです。野中郁次郎氏のSECIモデルを実践する「場」であり、
 ・人が対話し
 ・何かを表現し
 ・思いを結びつけ
 ・行動を起こす
「場」といえます。

このとき、知的資本とは
 ・人的資本 : 人の成長(技術、精神的なもの)
 ・構造的資本 : ビジネスモデルなどのアイディア
 ・関係性資本 : 人と人のつながり
の3つを表しています。フューチャーセンターはこの3つの要素を生み出すことで、イノベーションを形作っていくわけです。この発想はU理論やホールシステムアプローチにも通じるものがあります。お互いのおかれている現実、関係性を受け入れ、その先の未来を見据えてシナリオを進めていくわけです。


  フューチャーセンターのやり方 ⇒ 3つのレベルと6つの原則
フューチャーセンターには3つのレベルがあり、順番にたどることが必要になります。
 ①組織内対話
 ②組織の問題解決
 ③組織の枠を越えたイノベーション


このとき、必要になるのが「場」を作り、問題解決・イノベーションへと導いていくリーダーシップです。それはまさに野中郁次郎氏が提唱する「賢慮型リーダーシップ」です。そしてそこに求められる考え方として、社会には関係性があり、だれもがその一翼を担っているということ。つまり、自分が当事者として考え、“相手の靴をはいて考える”ということが必要なのです。ここはU理論の話そのものにつながります。

そして実際にフューチャーセンターの場をつくり、活動を行うのですが、そこには6つの減速が必要です。
 ・想いのある人にとっての大切な問いから始める ⇒ 信頼できる場にする
 ・多様な知識を一同に集める ⇒ 多様性のある場にする
 ・お互いの関係性を大事にして、自発性を高める ⇒ 関係性を築く場にする
 ・共体験の場をつくり、実践を創発する ⇒ 全体性(一体感)のある場にする
 ・あらゆるプロトタイピングを行う ⇒ 可視性(チャレンジ)のある場にする
 ・質の高い対話から方向性・アクションを定める ⇒ 安心感のある場にする
つまりは対話が重要なのです。お互いを尊重し、深くつながる対話を行う場を作っていくこと、それを継続していくことが必要だということでしょう。そして単に不平不満・皮肉を繰り返すのではなく、大切な問いから答えを導き出す、未来につなげていく、共通善に向かわせるファシリテーションは必須となるわけです。


  フューチャーセンターの成功要素 ⇒ 場へのコミットと継続
フューチャーセンターはただ単に場を作り、人を集めるだけでは成功しません。そこには必要な要素があります。それは
 ・課題提起をするひとが本気であること
 ・実行力を持った人が参加すること
 ・ファシリテーターが共通善に向かって強い意志をもって関わること
です。集まるだけではなく、あくまでもイノベーションを起こし、実行していくことにコミットすることが必要なのです。そしてコアになる思いを中心にコミュニティを形成することがカギなのです。

最初は組織内の小さな対話の場かもしれません。しかし、そこに想いと実行力とドライブをかけるファシリテーションがあれば、新たな関係性を持ち込むことができます。人の資本を取り入れられるわけです。そして人が加わることで、新たな構造的資本、つまりアイディアが生まれます。結果、イノベーションが形になっていくわけです。フューチャーセンターには特別な施設も要りません。まずは真摯に対話をする、そこから始め、そして続けることが大事なのです。