2012年5月27日日曜日

BYODとクラウドで変わる企業の情報システム ⇒ まず必要なのは情報システム部門の創造的破壊


自分が使っているスマートフォンやタブレットを仕事でも使うBYOD。この流れが進んでくれば、クラウド利用も進んでいきます。その結果、企業の情報システム部門のあり方にも影響を与えてきそうです。

Jack Zalium

  今までの情報システム部門の仕事 ⇒ 規定のルールに従ってIT環境を管理する“お役所仕事”なこと
企業の情報システム部門は、企業内のIT環境を一括して管理する部門。規模の違いはあれど、ほとんどの企業にはそういった役割を担う部署、人員がいます。その仕事を大まかに整理すると
 ・PCやサーバーなどのハード管理
 ・グループウェアや計システムなどのシステム管理
 ・インターネットや社内LANへの接続環境などのネットワーク管理
 ・ウィルス対策や情報漏えいに対する施策などのセキュリティ管理
 ・業務で発生する、または利用する様々な情報のデータ管理
といったところです。一言で言ってしまえば、社内のIT環境を管理することが仕事。ここで言う“管理”というのは、“Management”という意味ではなく、“Administration”や”Controll”という意味のほうがふさわしいでしょう。決められたルールを適用し続ける、ということに主眼が置かれています。誤解を恐れず言えば、お役所仕事になっていることも少なくないのです。


  これからの情報システム部門のあり方 ⇒ 企業の価値創造に貢献するITマネジメントの提供へ
ここでBYODが導入され、クラウド利用が進展して言った場合、情報システム部門の仕事はどのように変わるでしょうか。

 ・ハード管理
  自社所有/リースのハード管理から、個人所有端末の利用も可能に
 ・システム管理
  自社保有システムから、クラウドベースの管理に
 ・ネットワーク管理
  社内環境だけでなく、モバイル環境を含めた管理に
 ・セキュリティ管理
  社内ネットワークを前提にするものから、クラウドを前提にしたものに
 ・データ管理
  社内に閉じたデータ管理から、クラウドベースでのデータ管理に

クラウドベースでの管理に変わっていく、といってしまえば簡単かもしれません。しかし、これは根本的に情報システム部門の仕事のアプローチを変えることを意味しています。クラウドベースということは、状況に合わせて必要なものを組み合わせて業務の成果をもっとも上げやすい環境を用意し続ける、ということを意味します。もはや、規定のルールに従ってITを管理しているだけの業務では対応することはできなくなります。

したがって、情報システム部門には
 ・情報システムを利用する、現場業務を理解
 ・そのために必要なクラウド環境を整備
 ・フレキシブルに業務ユーザにサービス提
 ・業務生産性の向上、企業の価値創造に貢献
 ・本当の意味でのITマネジメントを提供
といったことが求められているわけです。


  ボトルネック化する情報システム部門 ⇒ 情報システム部門の創造的破壊がカギ
こうした情報システム部門の変革が必要なことは、BYODの話が出る前、クラウドが普及してくる前からも議論となっていました。しかし、実現されていないのが実情です。その背景としては、BYODやクラウドを進めるにあたって
 ・情報漏えいなどセキュリティ上のリスクがある
 ・導入の予算・時間・対応リソースが確保できない
 ・現場業務が見えず(利用形態が見えない)、管理が煩雑になる
といった問題があるためです。しかし、これらは表面的な問題であり、BYODやクラウドの導入を行わない根本理由とはなっていません。セキュリティ上の問題があればリスクマネジメントを行えばよく、限られた予算・時間・対応リソースでアクションを起こすことはどのような仕事でも同じことであり、現場業務が見えなければ見に行けばよいだけです。では、何が根本的な理由でしょうか。

その一つとして、情報システム部門が“自分たちの仕事を維持する”ことに重きを置いてしまっている可能性は否定できないのではないでしょうか。リスクや予算の話よりも、
 ・業務変更が起きることの負担増を避けたい
 ・ユーザ部門からの問い合わせが増えることは避けたい
 ・けれども自分たちの存在意義は維持しておきたい
といった政治的な要因が働いているケースは少なくないのではないでしょうか。ITに疎いユーザに対して、ITの話をすればありがたがられれる。そのような状態を維持したい、というマインドが働き、アクションを遅くさせていることは十分に考えられます。

また、ユーザ部門のITリテラシーもあがってきており、必ずしも情報システム部門の必要性は以前ほど高いものではなくなってきています。BYODやクラウドベースで業務を行うのであれば、情報システム部門をIT専用の部署として置いておく必要もありません。総務部門の一部でも十分に機能できます。つまり、BYODやクラウド化が進めば情報システム部門はその存在意義自体が薄れてしまうのです。自分たちの現状の仕事を維持することを考えれば、情報システム部門としてはあまり積極的に進めたいとは思わないでしょう。

結局のところ、BYODやクラウドによって業務生産性を向上させる、という旗印を立てたとしても、その変革の中心である情報システム部門がボトルネックになってしまう可能性が少なくないのです。もちろん、全ての情報システム部門が、その担当者が“お役所的”であるとは思えません。しかしながら、とくにCIOや中間マネジメントを担う人たちに、そうしたお役所的な発想があれば変革はとまってしまいます。BYODやクラウドによって業務生産性を高めていくのであれば、情報システム部門での創造的破壊が必要なのかもしれません。