2012年4月12日木曜日

【ネタバレBookReview】組織を変える「仕掛け」

高間邦男
光文社
発売日:2008-09-17
変わり続ける社会環境。この変化に企業が対応していくためには変革が必要、ということはずっと言われ続けてきました。ビジネスの教科書には必ず載っている言葉です。しかしながら、わかっていても変革ができていないことも少なくありません。それは変革の本質を捉えていないことが大きな要因ではないでしょうか。この本では、ホールシステムアプローチやU理論などのイノベーションのアプローチを踏まえて変革に向けての踏み込んだ考え方が整理されています。

以下、要約と解釈です。

  変革を求める企業に求められる基本的な考え方 ⇒ 複雑性の増す現場を見る
企業には常に環境に合わせて柔軟に変化し、社会に必要とされる価値を継続して提供していくことが求められます。このとき、基本的な考え方として、
 ・机上の空論では意味が無い ⇒ 動いているのは現場
 ・機能を並べるだけでは意味が無い ⇒ 経営トップから現場までの一貫性が必要
ということは忘れてはいけません。あわせて環境変化が
 ・これまで以上に早く
 ・多様性が高まっている
 ・複雑性も増している
ということも認識することが必要です。特に複雑性については以下の3ステップがあり、現状は最も複雑性の高い生成的複雑性にあることも認識することが必要です
 ・物理的複雑性 : 新技術や新制度の登場など環境によって引き起こされる複雑さ
 ・社会的複雑性 : 利害関係などの関係性によって引き起こされる複雑さ
 ・生成的複雑性 : 物理的複雑性×社会的複雑性の両方が派生する予測不可能な複雑さ


  変革を実現する基本的なアプローチ ⇒ ポジティブアプローチで未来への創発を
予測不可能な複雑性に企業が対応していくためにはどうすればよいのでしょうか。物理的な複雑性であれば、全体の仕組み(システム)を最適化することを考えていれば解決できました。社会的複雑性については、参加者同士の協調性を引き出す対話の場があれば解決することができました。しかし、生成的複雑性ではそれらのアプローチでは不十分です。予想不可能な複雑性に対しては、過去のケーススタディに学んで踏襲するのではなく、新しいアプローチを創発していくことが必要なのです。

その創発していくためのアプローチの一つがポジティブアプローチです。具体的な手法としてはAIやフューチャーサーチなどがありますが、共通した原則は
 ・信頼感のある対話の場を作る
 ・メンバーの察知力を引き出す(互いの考えを感じ取る関係を作る)
 ・相互に敬意をもって強みを引き出しあえる状態にする
 ・一人ひとりが主体性を引き出す
 ・場の一体感を作る
 ・共通の思いを創る・言葉にする
ということが必要になります。このあたりのアプローチはU理論や知識創造などの要素が多分に含まれています。


  変革へのアクション ⇒ 変革のリーダーと9つのステップが必要
ポジティブアプローチの原則を押さえた上で、実際に変革を行っていくためにはアクションを起こさなければいけません。そのアクションとしては
 1・俯瞰的視野から現状を把握してわかりやすく共有する
 2・ありたい姿の共通認識を持つ
 3・相互の信頼関係を作り上げる
 4・目的・ゴールを全員が理解する
 5・ネガティブな要素も含めて現状を受け入れ、そこからの創発を引き出す
 6・創発した内容を深め、全員が理解を共有する
 7・何を・いつまでに・だれが・どこまでやるか具体的なシナリオを決める(アクションプラン)
 8・ゴールに向けてシナリオを実行する
 9・レビューをして成果を実感する
という9つのステップが必要となります。そして9ステップ目までたどり着いたら再びステップ1からはじめていくことで、予測不可能な複雑性に対応していくことが可能なのです。

ただし、この実行にはコーディネーターが必要です。放っておいて自動的に進むわけではありません。自分自身が変革を強く求め、信念をもって周囲に働きかけることができるリーダーの存在は必要不可欠です。理屈で押し固められたリーダー像ではなく、論理も理解しながら、ハートももっているリーダー像が求められるのです。