スマートシティを実現していけば、今後社会の構造は大きく変わっていくことになります。雇用形態も大きく変わっていき、当然生活も変えなければいけません。そして変化は喜ばしいものであってもそうでなくても不安がつきまとうもの。この不安を取り除くために、社会のセーフティネットは根本的に見直さなければいけないのではないでしょうか。
課題たっぷりのセーフティネット ⇒ 生活保護に如実に現れる課題
セーフティネットは仕事ができなくなったり、生活が困窮してしまった場合でも、安心・安全を保障するための社会制度。日本においては憲法 第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」で示される権利を保障するための仕組みともいえます。
しかしながら、その社会保障制度は本質的な意味で利用されていないケースも出てきています。たとえばセーフティネットの代表格ともいえる生活保護。2012年1月時点で受給者は208万人を突破し、予算は3.4兆円にものぼります。この背景には確かに日本経済は低迷や、2012年3月の求人倍率0.76倍という雇用不足が問題だとはいわれています。ところが、年平均の求人倍率が0.48倍であった1999年の生活保護の受給者は100万人程度。この数字を見る限り、生活保護の要因が単純に雇用不足から成り立つとは考えにくいものがあり、生活保護が増えている理由には雇用以外の問題があるといえます。現在、実際に指摘されている問題点としては、
・本来働ける世代・環境(健常者・若年層)が生活保護を受けている
・外国人に対する生活保護が増えている
といったことがあげられています。この状態はもはやセーフティネットとして正しく機能しているとは言いがたい状態なのではないでしょうか。
生活保護の背景にある問題は? ⇒ 働くよりも得になる社会構造
では、なぜ働ける世代が生活保護を利用しているのでしょうか。働ける世代が生活保護を利用する理由はシンプルです。働くよりも生活保護を受給したほうが経済的に潤い、生活が安定するからです。年収200万円にもいかないワーキングプアーとよばれる人たちがいます。彼らはこの200万円の中から家賃や医療費、税金を切り出して生活しなければいけません。これに対して生活保護は家賃補助がもらえたり、医療費が無料になったり、税金が免除されたりします。しかも地域によって違いますが月10万~15万円の受給額が得られます。現金所得でみれば生活保護のほうが低くなりますが、可処分所得でみれば生活保護を受給するほうが高くなることも十分にありえます。となれば、ワーキングプアーになるよりも生活保護を選ぶ人が出てきても不思議はありません。
また、外国人に対する生活保護についてはチェック体制が緩い、という指摘もあります。事実、2012年1月時点での外国人に対する生活保護は1200億円、受給者は7万3千人。受給資格者1373万人に対する保護率は5.5%にもなります(日本人に対する保護率は1.6%)。この背景には、日本人に対しては経済状況などの詳しい調査が行われることに対し、外国人の場合は領事館で身元を確認する程度と、生活保護を受けるための仕組みが簡略化されていることがあげられます。まして日本は経済低迷が続いているとはいっても、世界的に高い経済水準にあります。日本で生活保護を受けることができれば、母国にいる家族を十分に潤わせる仕送りも可能なケースも存在します。
いずれにおいて、働くよりも生活保護を受けたほうが得、という構造が存在しています。“働いたら負け”という冗談も冗談でなくなってきています。つまりセーフティネットとして最低限の生活を保障する、という本来の目的とは異なる形で制度が利用されており、その是正ができなくなっているのです。
まとめ:セーフティネットは社会全体のバランスをみて創造的破壊へ
生活保護の問題は、それ単体を見ているだけでは捉えきれない問題です。しかし、社会構造・経済構造を俯瞰的に捉えれば問題点は明白になります。ここにセーフティネットの深い問題が眠っています。
セーフティネットは社会を底支えする制度です。したがって、個別の事象だけを捉えていては十分に機能することはできないのです。しかしながら、多くのセーフティネットは個別の事象への対応策でしかなく、厳しい言い方をすれば応急処置にとどまってしまっています。しかも、その制度が歴史を持っており、多くの利害関係をはらむため容易に改善できなくなっています。このまま現状を継続しても本質的な意義を取り戻すことは困難かもしれません。ましてやスマートシティのような新しい取り組みを行っていくには、足かせにしかなりません。
本来社会に必要なセーフティネットを取り戻すためには、今ある機能的に問題のある制度を一度壊し、全体を俯瞰して作り直す創造的破壊のプロセスが必要です。特にスマートシティという新しいまちづくりを行っていくのであれば、避けては通れない道なのではないでしょうか。
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