2012年4月16日月曜日

【ネタバレBookReview】図解入門 よくわかる最新スマートグリッドの基本と仕組み

山藤 泰
秀和システム
発売日:2011-08


東日本大震災以降、注目度があがっている電力問題。また、取り組みが盛んになっているスマートシティ。こうした背景を受けて、今後動きが盛んになってくるスマートグリッドに関するトレンドを体系立てて整理しているのがこの本。スマートグリッドについての基礎知識をつかむには最適な一冊です。

以下、要約と解釈の整理です。

  スマートグリッドの基本要素 ⇒ スマートメーターを中心とするICTインフラがベース
スマートグリッドは電力の最適化を図る仕組み。その最大のポイントは自然エネルギーの大幅導入です。水力はもとより、風力、太陽光、太陽熱などによる発電を組み込んで、安定的に電力を供給しなければいけません。しかしながら、風が吹かない日もありますし、日が照っていない日もあります。そうなれば発電量も変動し、単純に数を揃えるだけでは電力供給は安定しません。

そこで必要となるのが、発電・送電・配電のコントロールです。自然エネルギーの発電量が下がれば、化石燃料を使用した火力発電所の稼働率を上げるなどの発電のコントロールが必要です。そして電力が必要となっているエリアに必要な量を適正に送電することが必要となります。さらに緊急度の高い電力需要者(利用者)から優先的に配電していくことが求められるのです。

またスマートグリッドを考える上では蓄電システムも必要となります。自然エネルギーの特徴として、必要な発電量を上回って発電してしまうケースも考えられます。このあまった電力を捨ててしまっては、あまりにももったいない。であれば、巨大な蓄電システムを作りそこに電力を貯めておいて、電力が不足する場合に利用できるようにすることが必要になります。これにより火力発電などの稼働率を極端に上げることなく、安定した電力供給が可能となります。

当然、発電・送電・配電のコントロールは簡単ではありません。状況に合わせたダイナミックなコントロールが必要となります。となると、前提として電力情報の高度な管理がされていなければいけません。リアルタイムで電力の利用状況が把握できるスマートメーターの存在は不可欠です。そのうえで、スマートメーターなどからあがってくる膨大な情報を処理できるICTインフラは必要不可欠となります。


  ダイナミックな電力コントロールが鍵 ⇒ システムだけでなく関係者の調整も必要
将来的にスマートグリッドはどのような形に進化していくでしょうか。電力供給量の最適化を図っていくという観点から言えば、全ての電力システムが連動してダイナミックに機能することが必要となります。例えば、電力供給量が不足すれば家庭の電力を丸ごと停電させるのではなく、電力消費量お大きいエアコンだけ自動停止する。電気自動車の充電もプラグにつないだら一斉に行うのではなく、電力供給状況やバッテリー残量に応じて優先順位をつけて行う。電力の発電だけでなく、利用する側の制御もダイナミックに行えるシステムが必要となるのです。

ただし、ここに一つの問題があります。スマートグリッドは社会のインフラである電力をコントロールする仕組みであるため、非常に多くの関係者が存在します。そして意見が対立する可能性も決して低いものではありません。電力不足時には停電させる代わりに電気料金が安くなる料金体系を取る、電力ピーク時には電気料金が分単位で値上がりする、といった仕組みなどによりバランスをとっていくことが求められます。


  スマートグリッドの今後 ⇒ スマートシティという大きな可能性へ
スマートグリッドは始まりに過ぎません。エネルギーとICTのインフラを整備して新しい街を作り上げていく、つまりスマートシティ(スマートコミュニティ)に向けたアプローチの第一歩です。日本でもこのスマートシティの取り組みは有名なところで、横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市などで行われています。そのほか、宮城県や長野県、島根県など数多くの自治体で行われています。いずれもスマートグリッドの取り組みは行っていますが、それだけではなく農業や工業、流通システム、医療など多岐にわたる都市機能の最適化を目指しています。そして東日本大震災を受けて最近は単にスマート=最適化するだけでなく、その先のサスティナビリティ=持続可能性、さらにはレジリエント=復元性(復旧可能性)まで視野を広げた取り組みとなってきています。

また、こうしたスマートグリッドの取り組みは当然日本だけにとどまりません。北米やヨーロッパはもちろんのこと、アジアの各地域、アフリカなど全世界で行われています。これは大きなビジネスチャンスを意味します。日本のスマートグリッドのテクノロジーを確立して世界に向けてブランディングができれば、インフラ輸出という大きなビジネスに乗り出すことができるのです。もはやスマートグリッド、そしてその先にあるスマートシティを無視してビジネスはできなくなってきているのかもしれません。